全国の社交ダンス教室の受講者の統計をご存知ですか。約六割が五十代以降で、六十代がその中核を占めます。若者のダンスとは異なり、社交ダンスは実は中高年の文化として、静かに受け継がれています。
体を動かすためだけの活動ではありません。社交ダンスは、人と人との距離、目線、手の置き方、呼吸の合わせ方を、「型」として学び直す場でもあるのです。五十代以降の方にとって、この学び直しは、思いのほか深い意味を持ちます。
なぜ、社交ダンスなのか
- 短時間の運動で、全身が動く。一曲三分の間に、心拍数、姿勢、呼吸がすべて整います。週に二回通えば、ジム以上の効果です。
- パートナーが必要だが、固定でなくてもよい。教室では順番にパートナーを変えて練習します。一人で通えます。
- 音楽との対話がある。ワルツ、タンゴ、ルンバ、ジルバ、それぞれにリズムの個性があります。五十代の耳は、若い頃より音の細部を捉えられます。
- 自然な身だしなみが身につく。ダンスの場では、清潔感のある服装、磨かれた靴、整えられた髪が自然と意識されます。
最初の三ヶ月は、グループレッスン
教室選びで迷われたら、まずはグループレッスンがある場所を選んでください。個人レッスンは体系的に学べますが、五十代で初めての方には、まず「ダンスの場の空気」に慣れることが大切です。
東京では銀座、神楽坂、横浜、関西では大阪・梅田、神戸・三宮、名古屋では栄、福岡では天神周辺に、中高年向けの良い教室が集まっています。月謝は五千円から一万五千円程度が一般的です。
グループレッスンでは、毎回パートナーが変わります。これが、社交性の回復にとても良い効果を持ちます。十人十色の方と、短い時間ずつ手を握り、目を合わせる。この経験が、長らく一人で過ごされてきた方の何かを、静かにほぐしていきます。
型が教えてくれる、敬意
社交ダンスの魅力の一つは、「型」が人間関係の敬意を体に教えてくれることです。
踊る前の一礼、パートナーへの手の差し出し方、終わったあとの会釈。これらはすべて、相手への敬意を体で示す動作です。言葉で「ありがとう」と言わなくても、型の中にすでに感謝が含まれています。
五十代以降、ビジネスの現場から離れられた方の中には、この「型による敬意」を失ってしまう方もいらっしゃいます。社交ダンスは、それを自然に取り戻す場でもあるのです。
出会いの場としての、社交ダンス
社交ダンス教室は、全国のあらゆる出会いの場の中で、おそらく最も中高年に優しい環境の一つです。参加者の目的が「ダンスを楽しむこと」にあるため、いきなり「いい人を探しに来ました」という空気はありません。
しかし、半年、一年と通われるうちに、パーティーや発表会などの場で、自然に距離が縮まる方が出てきます。東京の銀座で二年続けられた六十一歳の女性は、教室のパーティーで知り合われた方と、今も月に一度のダンスと食事を楽しまれています。
「恋愛関係ではないんですよ。でも、三ヶ月に一度は一緒に軽井沢に行くんです」。この距離感が、五十代以降にはとても合うのです。
姿勢が変わる、日常が変わる
社交ダンスを半年続けられると、多くの方が「姿勢が変わった」とおっしゃいます。これは気のせいではありません。ワルツやタンゴの上半身の引き上げは、日常生活の背中に自然に影響します。
姿勢が変わると、服装が変わります。服装が変わると、外出の回数が増えます。外出の回数が増えると、出会いの可能性も自然に広がります。社交ダンスが中高年の出会いに強い本当の理由は、教室そのものよりも、この連鎖効果にあるのかもしれません。
男性の方へ、特に
五十代、六十代の男性の多くが、「ダンスなんて、今さら」と尻込みされます。しかし、現役の社交ダンサーの中には、六十代で始められた方も珍しくありません。
最初の三回だけは、誰もが恥ずかしさと戦います。四回目から、手の位置、足の運び、音との合わせ方が、少しずつ繋がり始めます。半年たった頃、ご自身の変化に驚かれるはずです。
男性リーダーの需要は、どの教室でも慢性的に高いのです。五十代、六十代の男性の新参者は、どこでも歓迎されます。
始める前に、三つの準備
- ダンスシューズを用意する。最初は普通の革靴でも構いませんが、一ヶ月続けられたら、必ずダンス用の革底シューズに変えてください。怪我の予防と、動きの違いが格段に上がります。
- 服装は、カジュアルすぎない、動きやすい格好。Tシャツ短パンではなく、襟付きシャツと細身のスラックスが基本です。
- 見学を一度、必ずしてみる。教室の雰囲気は千差万別です。ご自身に合う場所を、最初の一回で見極められてください。
最後に、小さな一歩
今週末、お近くの社交ダンス教室の見学予約を、一件だけ入れてみてください。通い続けるかどうかは、見学してから決めればよいのです。
フロアには、あなたと似た人生の段階の方が、すでに何人も立っていらっしゃいます。音楽が始まったら、型が体を運んでくれます。難しいことは、何もありません。